TOP>里親/保護犬 > 話しかけてほしい。言葉は分からなくても、あなたの声は届いているから。

  • 犬の里親/保護犬

話しかけてほしい。言葉は分からなくても、あなたの声は届いているから。

マリアの十戒

2020年6月12日。14歳9カ月の犬生をまっとうし、第三の犬生に旅立った、小さなラブラドールレトリーバーのマリア。鹿児島の崩壊した繁殖場から地元の女性ボランティアさんたちの数年に及ぶ努力によってレスキューされ、運命のようにわが家にやってきました。そんなマリアが若かりし頃、ボクたちに教えてくれたのが、犬の十戒ならぬ、マリアの十戒です。

其の四.私を長いあいだ叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで欲しい。あなたには他にやる事があって、楽しみがあって、友達もいるかもしれない。でも、私にはあなたしかいないから。

マリアは大きな声で叱られたり、叩かれたりすると怖くて固まってしまうの。繁殖場時代のトラウマからか他の犬より特に怖がりです。ママは繁殖場時代、当時のマリアの様子をMさんのブログで見ていたので、マリアの性格を理解してくれていたらしい。ほかの犬より臆病で控えめな性格だったので写真もほとんどなくて、ブログに登場することも少なかった。いよいよ繁殖場を出る平成19年9月27日、動物病院への移動のときと、翌日動物病院から東京への移動のときのブログはマリアたち4頭の特集だったの。

そのときのブログをみてママはマリアのこと印象がよくなかったそうよ。それは用意されたケージに入れるのも抵抗、出すときも抵抗で何人もの手をわずらわせ、診察室に入るときも前足で抵抗して動かない様子を見たから・・・この子はがんこね。こういう子の里親にはなりたくないわ・・・と正直思ったそうよ。

そのせいか東京での預かり先が4頭の中でマリアだけ決まってなかったの・・・それが最初に里親にと決めていた同じお里のゴールデンレトリーバーのレモンちゃんの癌が発覚、ボランティアさんの元で入院、手術になりボランティアさんの負担を軽減してあげたいとマリアを預かることにしたの。今、思うとふしぎな縁よね。マリアは望まれてこの家に来た子ではなかったの。


レモンちゃん(左)と若かりしマリア

わが家に来た当事のマリアはパニック状態。散歩に行ってもオシッコは3日間しなかったし、用意してくれたベッドに頑なに寝ようとせず、夜になると暗さから、人間を怖がり逃げ回る。そんな状態が2ヶ月近く続いたの。普通なら「この子は無理です」と、ボランティアさんに返されてもしかたないわよね。

でもママは頑張ってくれた。パパやお姉ちゃんも見守ってくれたの。ボランティアさんに返せば、多頭飼育のためケージでの生活になる。手間も愛情も十分にかけてもらえない、何よりまた、環境が変わることがマリアにとってかわいそうと・・・家族全員が何日か一緒にいて情が移り言葉にはしなかったけど、うちの子に・・と徐々にみんな思ってくれてたみたい。そんな家族の思いに答えられない、まったく可愛げのない子だったの。


わが家に着た頃のマリア

2ヶ月ちかく経ってボランティアさんからマリアに里親希望のかたがいると電話があったの。その時ママは迷わずうちの子にしますと答えてくれた。電話を切って玄関で不安そうにしていたマリアに、ママとお姉ちゃんが同時にマリアと呼んだの。それまでは決してリビングには入ろうとしなかったけど、おもわず家族みんなところへ駈け寄ってしまったのをおぼえてる。家族みんなにさわってもらって、はじめてソファにも乗った。言葉はわからないけど、この時みんなに名前を呼んでもらい、みんな笑っていた。わたしはこの家の子になったんだと、強く感じた瞬間だった。


誕生日プレゼントももらえるようになったよ

マリアは普段、まったく吠えない。この子は声がでないの?とパパが心配したほど。でもパパやママは知らないけど、ケージに入れられるホテルでは吠え通しなんだ。マリアはケージが大嫌い。はじめてわが家に迎え入れてくれた夜、心配なのでママがケージに入れようとしたら、なかなかケージに入らず、やっと入ったとおもったらわんわん吠えたので、「マリアはケージが嫌いなのね」と、即座にあきらめてくれた。

だから、パパとママが毎年恒例のユーミンの苗場コンサートに1泊でお出かけし、やむなくマリアをペットホテルに預けるとき、ケージに入れられるペットホテルではマリアがかわいそうと、部屋の中でずーっとフリーにしてくれるホテルを見つけてくれた。ドッグトレーナーの夫婦が経営してるから、みんないい子で喧嘩もなく仲良く過ごすことができる。パパやママも安心してマリアを預けているみたい。パパやママに用事があるときは、マリアはいい子で待ってるよ。でも、本心は、一緒にお出かけするのが一番楽しく安心なんだけどね・・・。

マリアは今ではパパやママの言うことが理解できるけど、はじめから理解できた訳ではないよ。犬は何回も続けて言うと理解できない。2回までとトレーニングの本に書いてあるそう。ママは愛犬と一緒のしつけ教室に通ったので、犬のことを理解している。ゆっくり低い声で目を見て叱るそうだ。マリアも叱られることがあるよ。その時はママの目を見て反省してますと目をうるうるとするとママは許してくれる。わかった?もうだめよと言われれば許してもらえたんだ。するとうれしくて笑顔になりジャンプしてしまうんだ。その態度の変化にママは笑ってしまうらしい。

マリアはたまにパパやママが仕事や用事で帰宅が遅れてもいい子で待ってられるよ。それは必ず帰ってきて散歩に連れて行ってくれると信じているからなんだ。ママは日頃から朝夕の散歩、食事時間などだいたい決まった時間にしてくれる。何かの事情で遅れることがあっても日頃の信頼関係が成り立ってるので待っていられるんだ。パパやママはマリアの世話を決して忘れない。犬は人間が世話をしないと生きていけないんだ。犬の幸せは飼い主次第。パパやママは他に楽しいことがたくさんあるけど、マリアはパパやママと一緒でないと何もできないんだ。だから1日のわずかな時間でもマリアとふれあってね。それが、マリアがいい子でいられる秘訣だよ。

其の五.話しかけてほしい。言葉は分からなくても、あなたの声は届いているから。

マリアは繁殖場で繁殖犬として生まれ、2歳すぎまで名前なんかなかった。だから、それまで人間に名前で呼ばれたことが一度もなかった。

 

ボランティアのMさんやSさんがマリアたちの世話をしてくれるようになって始めて、繁殖場の犬たちそれぞれに名前をつけてくれたんだ。そのころのマリアの名前はエクル。すてきな名前でしょ。


鹿児島の崩壊した繁殖場でのマリア

Mさんたちは繁殖場にいたすべての動物たちをそれぞれの名前で呼んでくれた。しっかりと目をみて話しかけ、優しく触ってくれた。しばらくたつと、自分の名前がなんとなく分かるようになって、名前を呼んでもらうこと、自分だけを見てくれることの喜びを知った。それまでは優しい言葉なんてかけてもらったことがないし、人間が発する言葉などまったく理解できなかった。繁殖場のオーナーはいつもいら立っていて、その声にマリアたちは日々、おびえて過ごしていたんだ。

この家の子になって、マリアという名前をもらった。ママがつけてくれたんだ。ママ自身が”マリアさま”のような心を持ちたいという思いと、神からの授かりものという意味も込めてマリアという名前にしたんだって。それにみんなから覚えてもらいやすい名前でしょ。呼びやすくて響きがいいからマリアも気に入ってるよ。

ママは里親になるのが初めてだった。だから、小犬のころから飼い始めた、先代のゴールデンレトリーバーのナナ先輩と同じような愛情をもてるかちょっと不安だったらしい。里親になる責任、エクルの第2の犬生を幸せで豊かにしてあげたいという自分の覚悟も必要だったって聞いてるよ。その覚悟がマリアという名前に込められいるんだと思う。2歳半で離ればなれになったマリアの姉妹やママが知ったら、「名前負けしてるんじゃないワンか」って言われそうだけどね・・・。

 


立派なラブラドールレトリーバーになりました

今、思い出せば、マリアが鹿児島から羽田空港に着いて、受け取りの東京のボランティアさんからママに引き渡されたときから、ママとパパは優しく話しかけてくれた。パパの運転でワゴンの荷室に乗せられ、夜の湾岸道路を走っていたときも、ママは後席からずっとマリアのことを触りながら、話しかけ続けてくれたことを覚えてる。でも、マリアは愛想なく後ろを向いて、都会の明かりがシャワーのように流れる不思議な光景に見とれていた。まだ人間の言葉を理解なんかできず、見知らぬ人と一緒だったから少し怖かったんだ。

今では、マリアはお家の2階以外は自由に過ごすことができる。だから誰かいるときはいつでもみんなの声が聞こえてくるし、いつも大好きな家族のそばにいられる。食事のときはママとパパの間に、リビングでテレビを見るときはソファでママのとなりにいるのが好き。そんなとき、マリアのことをたくさん触ってくれて話しかけてくれる。犬を飼ったことがない人が見たら、不思議な光景に映るかもしれないね。

マリアは1頭飼いだから大好きなパパやママを独占できる。パパやママがたくさん話しかけてくれるから、今では何を言ってるのかだいたい理解できるようになったんだ。褒めてもらっているのか、悪口を言われているのか、怒られているかもちゃんと理解できるもんね。たまにパパやママが大きな声をだすと、マリアに被害が及ばないよう避難することも覚えた。とぱっちりはごめんだから。

散歩のときもパパやママはマリアに話しかけてくれるよ。マリアは公園やドッグランが大好きだけど、道中、においをとったりして犬同士の情報収集しながらパパやママと並んで歩く時が最高に幸せなんだ。「風が気持ちいいね」とか、「お花がきれいね」とか会話しながら、季節を感じながらゆったりとした時間が流れていく。

犬は言葉がわからないからと決めつけられて、飼い主がだまっていたらつまらないんだ。よく散歩中、ほかの飼い主が携帯電話やスマホに夢中になっているのを見かけるけど、犬はつまらなそうに歩いてる。そればかりか歩くスピードが合わなくて犬が歩きにくそうでかわいそう。飼い主の立ち話し長引いてほとんど歩かず、犬が足元で退屈している光景もよく見かける。犬にとって散歩は数少ない楽しみなのに・・・。マリアはたまにママの立ち話が長引くと芝生の上でわざとゴロゴロしてやるんだ。身体を汚して困らせるのがマリアなりの小さな反発なんだよ。

ママは毎日のようにマリアのブラッシングとか耳そうじをして健康管理をしてくれる。マリアはそれが大好き。ママにさわってもらえることだけじゃなく、不快なところを快適にしてくれるから・・・。繁殖場時代は病気でもけがをしても病院になんて連れて行ってもらえなかった。耳そうじなんてしたことないから耳の中は汚れていていつも痒(かゆ)かった。かきすぎてこぶのようになっていたんだ。

それが今ではその痕跡すらなくなった。マリアがこの家にきたばかりのころ、病院のお医者さんは皮膚病でできたこぶは切除するしかないと言ってたんだ。でもママは1日に何度も薬を塗ってくれた。すると何ヶ月かしたらすっかり治っちゃった。そのことを覚えているから、ママのすることにマリアは抵抗しないよ。ママを信頼してるからね。今では、身体の反対側をするときママが「チェンジ」というと反対側に向きを変えられるようになった。ママは感心して「マリアは言葉をちゃんと理解してる!」って、みんなに自慢してるみたい。

パパやママは毎日、たくさんマリアに話しかけてくれる。それが犬はうれしくて、だからパパやママが忙しいときはいい子でいられるし、朝もママが起きてくるまでじっと待ってられるんだ。マリアが毎日、安心して過ごせるのは「おはよう」から「おやすみ」まで、パパやママができるかぎりたくさん話しかけてくれたおかげで、いつしか人間の言葉が理解できるようになったからなんだ。

世界中の犬を代表して言うよ。話しかけてほしい。最初、人間の言葉が理解できなくても、飼い主の声は犬にしっかり届いている。そしていつしか理解できるようになる。人間と犬のコミュニケーション、幸せな関係はそうして深まっていくんだ。

その六.飼い主がどんなふうに私に接したか、私はそれをすべて覚えていることを知ってほしい。

マリアは繁殖場で生まれ2歳すぎまで犬社会で暮らしていたの。家庭犬じゃなかったので人間からなにも教えてもらえなかった。犬同士のけんかやいじめが日常茶飯事だった。

人間は犬同士がけんかをすると大声をだしたり、たたいたり、鎖を短くしたりして犬たちを苦しめることしかしなかった。マリアたちはいつの間にか抵抗することをあきらめていたんだ。マリアがほかの犬より警戒心、恐怖心が強いのは、そんな環境で成犬まで育ったからだと思う。

この家の子になって5年近くになるけど、いまだにいろんなことがトラウマ(心的外傷)として残ってる。雷や大きな音が特に苦手。家の中にいてもブルブル震えてよだれがダラダラでてしまう。パパやママは「大丈夫よ」と言ってやさしく撫(な)でてくれるけど、こればかりはなかなか克服できない。最近は来たころよりひどくなってパパやママを悩ませてる。

マリアはしかられると怖くて固まってしまう子だから、パパやママは決してきつくしからない。きっとマリアなりに理由があると思ってくれるんだね。先代のナナ先輩を育てたときと同じようにはいかなくて戸惑うことも多いみたいだけど、パパやママは今、できなくてもいつかはできるようになると信じて接してくれているんだと思う。そんな家族に恵まれてマリアは幸せだとわかってるけど・・・幼少のころ経験した恐怖の記憶をなかなか消し去ることはできないんだ。

パパやママはいつだってマリアの世話を忘れない。休日になると1日中、話しかけてくれるし、さわってくれる。日々何ひとつ不自由なく過ごしていられる幸せを決して忘れない。パパやママがマリアにしてくれたすべてに、この家の子になって良かったことに、心から感謝している。


ホテルフォレストヒルズ那須での誕生日会

マリアはこの家の家族になって、人間が犬1頭にもそれなりに時間を費やしてくれることを知った。マリアが喜ぶからと忙しくても散歩の時間を短くしないし、ご飯だってドライフードだけじゃ味気ないと手間をかけておかずをトッピングしてくれる。マリアが安心して眠れるようにベットスペースもちゃんと考えてくれて、いつも清潔にしてくれている。かわいい洋服やリードや首輪を買って着せてくれて、かわいいと言ってくれる。マリアにさみしい思いをさせないようにと、旅行にだって一緒に連れて行ってくれる。


クリスマス旅行もいっしょだよ

ある盲導犬が、引退したあともパピーウォーカーさんのことをしっかり覚えていた話がある。パピーウォーカーさんの元を離れ、何年もたったある日、縁あって再びその家に引き取られたとき、足腰が弱まり歩けなかったそのラブラドールはパピーウォーカーさんを見た瞬間、元気を振り絞り、うれしさを全身で表現しつつパピーウォーカーさんの元へ歩きだし、そして玄関からかつて自分の居場所だった場所に向かって一目散に飛び込んでいったのも、その犬の記憶の確かさなんだ。

マリアはパパとママと過ごした日々を、パパやママがどんなふうにマリアに接してくれたかを、命ある限り、小さな頭の中に記憶して覚えているよ。もちろん、悪さをして怒られた苦い思い出もだけどね・・・・。

撮影 福永仲秋 雪岡直樹 佐藤靖彦 太宰吉崇 青山尚暉

 

つづく

文:青山尚暉

ドッグライフプロデューサー、モータージャーナリスト。雑誌編集者を経験した後、フリーのジャーナリストに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。愛犬家であり、愛犬とのドライブ術、ペットと泊まれる宿に関しても詳しく、Web、専門誌、一般誌、ラジオなどで「愛犬との快適安心な旅スタイル&クルマ旅」を提言中。愛犬はラブラドールレトリーバーのマリア、ジャックラッセルのララ(どちらも保護犬)。PETomorrowのほか、レスポンス「青山尚暉のワンダフルカーライフ」などでも愛犬とのカーライフをテーマにした記事を連載中。20164月には、愛犬とのドライブ旅行の集大成となるムック本『愛犬と乗るクルマ』が発売されている。輸入車の純正ペットアクセサリーの企画、開発、プロデュースにも携わる。愛車はシニア犬の乗降性にもこだわった、愛犬仕様にアレンジしたステーションワゴン。

\ この記事をみんなにシェアしよう! /
この記事をみんなにシェアしよう!
関連記事
関連記事

鶏のふわふわナス巻き【簡単ペットごはん】 (9.21)

4秒で驚きと笑いを提供してくれる「バネ猫」 (9.21)

「猫ロード」をクリアできるか?自宅の廊下がミッション・インポッシブル! (9.21)

「地雷犬」として訓練された犬…発案した人々に起きた報い (9.21)

もっと見る

注目のグッズ

犬猫どっち派?村松誠の「2021年版 犬猫カレンダー」

ドラえもんに大変身!犬猫用『ドラえもん コスチューム』

お待たせ。「俺、つしま」グッズ大特集!

ヘビロテ確定。「俺、つしま」のTシャツが登場!

人気記事
人気記事
\ PETomorrow をフォローするには下のボタンをクリック! /
PETomorrow をフォローするには下のボタンをクリック!


ページトップへ戻る