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メルケルとプーチンのおもしろ「犬」外交

メルケルとプーチンのおもしろ「犬」外交【ブックナビ】

最近、ネットで盛り上がっているのが、ドイツの大手小売会社ホルンバッハAGのコマーシャルが、日本人を差別しているという話題です。私も動画を見て、ドイツ好きの祖父がこれを見たらどんなに脱力しただろうと、残念でした。ドイツ社会の混迷とアジア蔑視の根深さをひしひしと感じました。

祖父は私が大学で第二外国語をフランス語にした時、「なぜドイツ語にしなかったか」と叱ったドイツ好きでした。フランス語の発音に四苦八苦している時は、記憶力勝負のドイツ語の方が良かったかなと、後悔したものです。祖父と同じ世代の医者や技術者の多くは、ドイツ親派でした。

そんなドイツ首相のメルケルは大の犬嫌いでした。プーチン大統領はメルケルがロシアを訪問した際、愛犬の黒いラブラドール・レトリーバーのコニーを部屋に入れ、嫌がらせをしました。「ドイツ最強の女帝メルケルの謎」(佐藤伸行著、文春新書、780円+税)で詳しく紹介されています。

メルケルは1995年、コール内閣で環境相を務めている時、ベルリン郊外の自宅近くで自転車に乗っていたところ、隣人の犬に襲われました。膝を咬まれ、転倒して負傷して以来、犬を怖がるようになりました。この事件以降、メルケルは自転車に乗ることを止め、大の犬嫌いになりました。

2006年、メルケルはロシアを訪問します。メルケルはロシア語が堪能で、プーチンはドイツ語が話せます。対談はロシア語やドイツ語を交えて盛り上がりました。メルケルは前首相とはちがう立場をはっきりさせるためにも、プーチンには強い姿勢で外交に臨みました。

プーチンはロシアの立場や現状を理解してもらうよう努めましたが、メルケルの強硬な態度にカチンときていたようです。帰りにプーチンはメルケルに白と黒のブチ犬のぬいぐるみを渡します。これはメルケルが犬嫌いであることを知っていた上で、あえて選んだ「いやげもの」(嫌なお土産)でした。

メルケルはこの「いやげもの」をどんな風に受け取ったのでしょう。「一説によると、メルケルの外交・安全保障問題担当補佐官であるクリストフ・ホイスゲンが、なるべく目立たないようにぬいぐるみを脇に抱えて外に持ち出したということである」(本文引用)。立派な補佐官が可愛い犬のぬいぐるみを脇にかかえて、そそくさと出ていく様子を想像すると、笑みがわいてきます。

愛犬家のプーチンへはこれまでもたくさんの犬が贈られています。日本からは2012年、秋田犬の「ユメ」が。2017年はトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領から、誕生日プレゼントとしてアラバイ犬の「Wepaly」が贈られました。

「世界最強の女帝メルケルの謎」を読むと、メルケルの人となりと同時に、ドイツ政界事情や、女性としての私的な側面を知ることができます。さえない理系女史だったメルケルが権力のある人物に引き上げられ、出世していく過程は、シンデレラストーリーのようでした。

プーチンとの犬のエピソードはメルケルの意外な一面を見ることができる、貴重な物語のひとつでした。ドイツはジャーマン・シェパード・ドッグ、ダックスフンドなど、たくさんの優秀な純血種を作出している国でもあります。愛犬家でドイツ好きの読者にはぜひおすすめしたい、ちょっと硬派な新書でした。

文/柿川鮎子

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