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犬であるとはどういうことか―その鼻が教える匂いの世界

犬と一緒に鼻をくんくんしてしまう、危険な新刊書

もちろんあなただって、寝室でパートナーが脱いだばかりのくさいソックスには気づくだろう。

そのくさい寝室内の空気の量は、だいたい四〇立方メートルぐらいだろうか。だが犬は、フロリダのNASAケネディ宇宙センターにある巨大なスペースシャトル組み立て棟よりも大きな部屋でだれかがソックスを脱いだとしても、それがわかるのだ。どんな犬でも、四〇〇万立方メートルのスペースセンターに入って、汗くさい宇宙飛行士をつきとめられるだろう。(2.匂いをかぐ者、より)

犬の認知行動の権威である著者が、匂いから犬の本質に迫りました。犬が匂いを嗅いで世界を知る行為について、ひとつずつ実証実験を重ねています。匂いをキーワードに犬を深く知ることができると同時に、犬は私達の世界をどんなふうに感じ、見ているのかを、教えてくれました。

犬の世界は様々な匂いで形づくられていて、私達が見ている世界とは違った世界を生きているのだということがよくわかります。犬が好きな人は、犬の優れた嗅覚の能力を知って、もっと犬好きになるでしょう。一方で、研究者の努力に感動する人も多いはず。実験のために著者(女性です)は犬の様に四つん這いになって(時には犬と一緒に)地面のニオイを嗅ぐのです。学術研究とはいえ、なかなかできることではありません。

著者たち研究者のグループは、そうやって匂いを嗅いだ末、春のアムステルダムが「砂糖をまぶしたワッフルの粉っぽい甘さ」であることを知ります。匂いを文章にして、伝えてくれると、ものごとがより具体的で、リアルに感じられるから不思議です。春のアムステルダムの街の印象が、これまでと違って素敵に感じられます。犬はいつもこうした匂いの情報に満ちた世界を生きているのだと思うと、ますます犬が愛しくなります。

私が大笑いしたのは、犬が匂いで飼い主の帰宅を知るという実験です。家に帰ると愛犬が玄関で待っていてくれるのは、人生の幸せのひとつですが、なぜ帰宅時間を知るのでしょう。私は長い間、玄関に近づく飼い主の足音だと思っていました。それが、今回の実験で犬は匂いでも飼い主の帰宅を察知していることが、わかったのです。研究者は飼い主が帰る前、飼い主の匂いのついた汗まみれのTシャツをこっそり家の中に入れました。犬は「こんなに強い匂いが残されているのだから、飼い主の帰宅はまだ先だ」と、カウチでいびきをかいていたそうです。突然現れた飼い主にびっくりしたことでしょう。

文系にはちょっと読みにくい研究書ではありますが、「味は八〇パーセントが匂いなのだ」とか「飼い主の九〇パーセント近くが、自分の犬の毛布とそうでない犬の毛布とを区別した」などなど、匂いにまつわる犬と人の面白いエピソードがあちこちにちりばめられていて、案外、飽きずに読むことができます。

トリュフ犬や探知犬など、さまざまな分野で活躍している犬について紹介してくれたのも、愛犬家には嬉しい内容です。犬の飼い主さんならば、必ずひとつは「そういえば!」と膝を打つ場面があるはず。この本を読んだ飼い主さんは、犬が鼻をくんくんさせている時、いっしょに鼻をくんくんしてしまうはず。匂いという身近で不思議な世界への扉を開いてくれる、おすすめの一冊です。

文/柿川鮎子

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