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朝7時の犬【犬が死んだ朝】

とうとうその朝、クロの首輪にリードをつけて玄関を出ようとしたところでクロは静かに崩れ落ち、眠ってしまった。朝7時00分だった。

お母さんは朝7時00分の犬、クロの葬式を朝7時にしてやりたかった。獣医師は連絡を受けて、動物葬儀会社に交渉したが、早朝の引き取りは前例のないことと断られてしまった。でも、獣医師はクロのためになんとしても7時にこだわりたかったので、翌朝いったん7時に家からクロの遺体を病院に運び、病院から葬儀会社へ移動させることにした。

獣医師が運転する車は朝7時の時報と同時にクラクションを鳴らし、ゆっくりと出発した。そしてクロの散歩道をぐるりと一周した。

まず通り沿いをゆっくり走ると、洗濯物を干していたおばあさんがこっちに気づいた。お父さんが窓を開けてワゴン車からクロを抱いて外を見せていたら、おばあさんが気づいて洗濯物を顔に押しつけて部屋の中に入ってしまった。

角を曲がって交差点で赤信号。信号のむこうには快速電車に乗るビジネスマンが歩いていた。周りを見回している、そうか、クロを探してるんだ。そう思ったお父さんは初めてクロの死を実感した。ワゴン車の窓を開けて、一度も挨拶をしたことのないそのビジネスマンに手を振ったら、お父さんに気づいて手を振ってくれた。動物病院のワゴン車を不思議そうに見ていた。

次にクロの乗った車は八百屋の前に立っていたお兄さんの前で止まった。お兄さんはポケットに手を入れていたが、ワゴン車を見てすぐ、店の中に引っ込んでしまった。車が発車して、八百屋からだいぶ離れた信号で止まっていたら、お兄さんが自転車で追いかけてきた。クロがどこへ行くのか知ったお兄さんは仏花を手渡してくれたのだ。自分の家に飾られていたものかもしれない。バラバラの菊がしっかり握られていた。茎の根元が水で濡れていて冷たかった。お兄さんは黙って窓から手を入れ、手のひらでそっとクロの鼻に触って頭を下げ、自転車に乗った。

公園にさしかかった。獣医師が「降りますか?」と聞いてくれたが、お父さんは元気な他の犬たちを見るのがせつなくてと断った。公園のむこう側にはいつもの散歩仲間が遊んでいる。耳を後ろになびかせて、走り回る犬がいた……あと十年もたてば、あの仲間だって一頭もいなくなる……お父さんは負け惜しみのようにそう思った。そして、散ったと思った桜の木の枝に一房だけ花が残っているのを見つけたのだ。

「お父さん、桜がまだ、ちょっとだけ咲いてますね」

お母さんも気づいて枝を指した。地面の上。桜の花弁の上に点々とついたクロの小さい足跡がくっきりと蘇ってきた。あのとき、自分はこの犬を幸せにしてやろうと決意したが、それは果たされたのだろうか。ワゴン車はゆっくりと公園を一周して動物病院へ向かった。

「犬にまたたび猫に骨」講談社刊・柿川鮎子著、「朝7時の犬」より

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