アテネオリンピック前に実施された「野犬保護プロジェクト」
アテネオリンピック前に実施された「野犬保護プロジェクト」
2020年に開かれる予定の東京オリンピックに、今から胸を弾ませている方は多いかと思います。しかし、東京オリンピックが開催され、世界の目が日本に集まる時期だからこそ、これを機に動物の殺処分問題にも意識を向けたいもの。現在の日本は、各都道府県によって殺処分ゼロへの意識が異なっています。
こうした現状を変えていくために私たちが知らなければいけないのが、2004年に開かれたアテネオリンピック前にギリシャで行われた取り組み。オリンピック開催を控えたアテネでは当時、野犬の保護プロジェクトが行われ、人と野犬が共生できる環境を築くことに成功したのです。
野犬保護プログラムの内容は?
アテネで行われた野犬保護プロジェクトは、いわゆるTNR。TNRとは、飼い主がいない犬や猫たちに避妊・去勢手術を行い、元いた場所に返す活動のこと。不妊・去勢手術を受けた犬や猫たちはボランティアの餌やりさんや、その地域で暮らす人々に見守られながら一世一代の命を全うします。
オリンピック開催前のアテネでは、街中の至るところで野犬が見かけられることが問題となっており、一時は殺処分を行うことも検討されていました。ところが、オリンピックを開くために動物を排除すべきではないという意見が多く寄せられ、行政も腰を上げることに。野犬たちに予防接種や病気の治療をし、TNRをすることが法案として提出されたのです。
法案はその後、ギリシャ議会で可決され、本格的に野良犬保護プロジェクトが開始され始めました。最初は試験的に、アテネ都市のある地区で250頭の野犬を対象にTNRを行うことに。すると、目に見える成果が得られたため、活動は徐々に広がっていき、2004年のアテネオリンピック開催までに野犬保護プロジェクトを成功させることができたのです。この活動を通して里親が決まった野犬も多く、結果的にアテネの野犬の数は減りました。
野犬保護プロジェクトが成功した理由は?
アテネで行われた野犬保護プロジェクトが成功した理由は、主に2つあります。まずは、野犬保護プロジェクトに獣医師やドッグトレーナーなどの専門家が携わったこと。
野犬の中には人に噛みつこうとする、問題行動のある子もいました。しかし、そうした野犬は獣医師やドッグトレーナーがしつけを行い、人と安全に暮らせるように変えていったのだそう。野犬たちがバイクや車に接触して街中で命を落とさないよう、交通訓練を行い、人間と安全に共生できるようにもしていったのです。
そして、野犬保護プロジェクトが成功したもうひとつの理由は反対派の人と綿密に話し合いをしたこと。アテネの人々はもともと動物保護に理解がある方が多いといわれていますが、中には野犬保護プロジェクトに反対していた人もいました。
しかし、そんな反対派の人に対してもTNRの重要性を訴えたり、野犬保護プロジェクトを行うメリットなどを説明したりしていった結果、理解を示す人が増えいったのです。
「動物の命を守りたい」「動物と共に安心して暮らせる社会を作りたい」―そんな想いが込められた野犬保護プロジェクトには、日本が見習う点が多いように感じます。“世界から注目を浴びるから“ではなく、”人間と動物が共に幸せになるため“に、行政としてもそろそろ動き出す時期が来ているのではないでしょうか。
文/古川諭香


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