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「飼わなきゃよかったのに」この子は二度も置き去りにされてしまった。

虹の橋を渡る日まで

祖母が亡くなった。3年前に癌の告知を受けて、90歳目前で苦しまずに逝ったので、大往生だったと皆が言っていた。生前の祖母は、癌の告知から自らの死期を悟って、いろいろと準備をしていたので、葬儀もスムーズに進んでいた。

見事な去り際を見せた祖母であったが、ひとつだけ誤算があった。遺影の前でずっと座り込んでいる、祖母の愛犬の存在である。

犬の話が最初に出たのは、祖母80歳の誕生日だった。私たち一家と叔母一家が集まって祝いのテーブルを囲んだとき、「犬を飼いたい」と、祖母がいきなり切り出したのだ。参加していた全員が「え?」という顔をしていたと思う。

「犬を飼いたい」と、再び祖母が口に出したが、もうそれが宣言のように聞こえて、我に返った父と叔母が、その歳では無理だというようなことをやんわり言っていた。

その場にいた私だけは、何となくその言葉に納得していた。当時、祖母とはよく携帯でメールのやりとりをしていたのだが、ある日のメールに「寂しい」というひと言があったのだ。

祖父亡き後、一人暮らしだったが、普段はそういう素振りさえ見せず、父と叔母の同居の誘いも断っていた祖母だけに、「寂しい」の文字がかなり私の心に刺さっていた。実子には強がってみせても、私みたいな孫にはつい本音が出てしまったのかもしれない。

とはいえ、やはり年齢を考えると祖母が犬を飼うことには無理だというのが皆の意見だったのに、その誕生日からひと月後、父と私が祖母の家に行ったら、玄関に犬がいた。

雑種の中型犬だったが、玄関でごろんと横になっていた。父が驚いて「なんだこの犬は?」と聞いたところ、祖母は「いろいろあって私が面倒見ることになった」と平然としていた。

近所で急に引っ越したお宅に、犬小屋とその犬だけが残されていたそうだ。町内会長と警察が「保健所に連れて行く」というので、祖母が「それじゃ、私が」と引き取ったそうだ。

父が「あんな風に寝てたら、番犬にもならないだろう」と文句を言っていたが、祖母は「棄てられたショックなのか、ごはん食べるとき以外は、ずっとああして、不貞寝してる。なんだか不憫で」とかばった。

父は「駄犬だ」と言うが、愛嬌がある顔をしていて、私は可愛いと思った。その後、ちょくちょく様子を見に祖母宅に行く度に、犬はどんどん変わっていった。

最初は何事にも無関心だったのが、顔を見てシッポを振るようになって、表情も生き生きしてきた。さらに、ボールを投げると取ってくるようになったのだ。

祖母は雨の日を除いて、ほぼ毎朝毎晩散歩に連れ出しているらしく、「犬友だちもできちゃったし、良い運動よ」と嬉しそうだった。父は「転んだりしたら大変だから、注意してくれよ」と文句ばかり言っていた。

「寂しい」とつぶやいていた祖母から送られてくるメールには、必ず犬の写真が添付されていた。犬と一緒にお花見したり、犬友だちとドッグカフェに遠征したり、犬が来てから充実した毎日の様子だった。

しかし3年前、何気なく受けた検診から、祖母に癌が見つかった。何を言っていいかわからない私に、「入院とか面倒をかけると思うけど、できる限り、準備を済ませておくから」と静かに言った。そして、居住まいを正すと「あの子のことをお願い」と頭を下げた。

「あの子が虹の橋を渡るまでは絶対に先に死なない、と誓っていたけど、今もそのつもりだけど、癌になっちゃって、あの子に申し訳ない。自分が不甲斐なくて仕方がない」と、口を結んで、祖母が嗚咽を漏らした。

気丈な祖母の涙を見るのは初めてだったので、かける言葉も見つからず、

「わかった、おばあちゃん、心配しないで。あの子のことは私が最後まで面倒をみる」と約束した。

病気は静かに進行していたが、普段の生活は変わらず、犬と共に楽しそうにしていた。「本当に癌なのか?」と私たちが訝しむくらいに、祖母はより活発的に犬との毎日を楽しんでいた。父によると「ばあちゃんの癌は悪さしない、いいところにできていた」そうだ。

そして突然、眠るように逝ってしまった。ちょうど叔母が来ていて、お茶が入ったと縁側の祖母に持っていたら、座ったままの姿勢で事切れていたらしい。眠っているような祖母の顔を見上げて、犬がずっとク~ンと鳴いていたそうだ。

祖母は犬についても、細々と書面に遺していた。まだ数年は生きるであろう犬のための病院代や餌代、葬式のことにまで及び、そのためにとかなりのお金を遺していた。

父は「おれ達のことより、大事に思われてるぞ」と苦笑していたが、確かに私たちのことよりも、ずっと犬のことを気にかけていた。

葬儀も済んで、私たち一家だけが祖母宅に残っていた。遺骨を安置してある部屋に行くと、そこに犬がいた。

じっと身じろぎもせず祖母の遺影に向かっていた。

呼んでも全く振り向きもせず、ただただ祖母と向き合っていた。

老犬となったその背中には白い毛がまだらに混じっていて、その頑なな後ろ姿に私はいろんな感情が湧きだしてきて、いたたまれなくなった。

この子は二度も置き去りにされてしまった。あんなに優しくしてくれたのに、いきなり大好きな人はいなくなった。ひと言の断りも無かった。どれだけ絶望したのだろう。しかもそれが二度もその身に起きたのだ。

犬が何を思っているかはわからない。いきなり身に降りかかった理不尽さに耐えているのか、それともそれすら理解出来ずに困惑しているのか。

「飼わなきゃよかったのに」

つい理不尽とは思ったが、初めて彼岸の祖母に怒りが湧いた。

相変わらず犬は祖母と向き合っている。今夜はずっとあのままでいるのだろうか。気が付いたら、私は犬のために泣いていた。

(文/木村圭司、編集/柿川鮎子)

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