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犬が原因で離婚できないかもしれない

虹の橋を渡る日まで

「もう君に愛情は無くなった」と言われた瞬間、別れる決意は固まった。そうか、それなら家で仕事をしながら、愛のない男のために、すべての家事をしてやる必要はない。子どもが産まれなくてよかった。少しずつ部屋を整理しながら、別居の準備を進めている。

問題は犬だった。夫が勝手にペットショップで買ってきた犬で、ずっと私が世話をしていた。私に相談なく、いきなり家に連れてきた時も、大喧嘩をしたっけ。

夫は「子どもができたら犬と一緒に育てたかった」と主張したが、自分が原因のセックスレスで、何が子どもか。本当にふざけた男だったよ。

しかし、動機はともかく、犬自身はとても性格のよい子で、しつけなくてもきちんとマナーを守れる賢い子でもあった。当然、世話をしている私が引き取るつもりだったのに、夫は猛然と所有権を主張してきた。

「俺がショップから買ってきたんだから、ロンは絶対に渡さない」と強情だ。

甘やかすばっかりで、きちんと世話をしたことがない人が何を言うか、だ。会社勤めの男が朝5時に起きて散歩して仕事して、夜にまた散歩なんて、とうてい無理だ。

夫は私の思い通りにさせたくない一心で、犬の所有権を強情に主張してきたのだ。やったこともないくせに、犬の世話なんて、簡単なことだと思っているのだろう。

「あなたが引き取るなら、ちゃんと飼えるって、証明してよ!」と、思わず声が大きくなる。もともと単純で応用の効かない男だったけれど、離婚という重要な局面では、建設的な議論ができない。

私が大きな声を出したせいか、犬が不安そうに私の膝の上に飛び乗ってきた。前脚をちょいちょい出して、気をひこうとしている。あまりにも可愛い姿を見ていると涙が出てくる。私がいなくなったら、どんなに寂しがることだろう。

自分の名前が出ているので、犬は嬉しそうに尾を振りながら、夫の方にも近寄って前脚でちょいちょいし始めた。怒っていた夫も犬を抱いて膝の上に乗せて撫で始めた。

くやしいけれど、犬は自分を買ってくれた夫も大好きなのだ。犬に罪はないけれど、犬のためにこの離婚問題は泥沼化していると言える。二人だけの話し合いでは、もう解決できないだろう。弁護士を雇ってでも、犬を連れて出て行ってやる。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

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