TOP>ニュース > もう一度、犬を愛してみたいけど、絶対に飼いたくない。

  • ニュース

もう一度、犬を愛してみたいけど、絶対に飼いたくない。

虹の橋を渡る日まで

昨年10月にわが子として可愛がっていたゴールデン・レトリバーのさくらをガンで亡くし、今日で半年たった。もう半年も経ってしまったのかという驚きと、まだあの悲しい日から半年しか経っていないという気持ちで、心はまだ乱れている。

あの子が亡くなった日はとても良い天気の早朝で、気持ちの良い風が吹き渡っていた。もう二度と動かない前脚がだんだん冷たく、重くなっていった。腸(はらわた)がよじれるほど泣いた日から半年、突然、かかりつけの動物病院から電話が掛かってきたのだ。

とてもお世話になった男性の看護師さんがいて、さくらをとても可愛がってくれていた。ガンの治療で、何とか痛みが出ないように、薬だけでなく食事の内容までアドバイスしてくれた看護師さんだった。私は自分のことで心がいっぱいで、看護師さん院長先生など、最後まであの子を支えてくれた人達にちゃんとお礼をしていなかったことを思い出した。

「すみません。動物病院の皆さんには、あんなにお世話になったのに、ちゃんとお礼もせずに」と恐縮したら、看護師さんの方が慌てている。

「そんなことないです!あんなに最後までお世話されていて、良い飼い主さんで、さくらちゃんも幸せだったと思います」

そんなことを改めて言われてしまって、電話口で思わず涙が出そうだった。あの子はみんなに愛されていたんだな。

「あの、それで、院長からお願いがあって、お電話したんですが、院長が電話だとお話がきちんと伝わらないかもしれないと言っていて、何時でも良いので、よろしかったら病院の方にいらしていただけないでしょうか?」と不思議なことを言う。私にお願い?何だろう。

最初にピンときたのが、亡くなったあの子の症例を論文などで発表したいという申し出ではないかという事。院長は大学で教えていたから、特殊なガンの症例として発表したいのかも。さくらの事例が他のたくさんの犬の役に立つなら、喜ばしい話しだ。夫を誘って、日曜日の午後、動物病院を訪れた。

院長先生と看護師さんが裏のドアを開けてくれて、病院に入った。何回も通った懐かしい動物病院。さくらがガンと診断されてからは、毎週のように通ったっけ。たくさんの思い出が押し寄せてきて、胸が締め付けられる。

院長先生は相変わらずでっぷり太って穏やかで、応接室でコーヒーを出してくれた。うちの子が病院スタッフの間でとても人気者だったという話を聞いて、思わず涙が出てしまった。

それを見て院長先生は「まだ、亡くなって半年ですから、お辛いですよね」と言う。

「私もそのお気持ちはよくわかりますから、こんなことをお願いできるかどうか、とても迷ったのです。でも、これまでたくさんの飼い主さんに出会いましたが、さくらちゃんのご家族ほど、犬を大切にしてくれる、素晴らしい飼い主さんはいません。もし、この話を不愉快に思われたら、本当にすみません。でも、私たち獣医師は、いつも生きている犬の幸せを願っています」

そう言いながら一枚のゴールデン・レトリバーの写真をテーブルの上に置いた。

「この子はまだ若いゴールデン・レトリバーです。近所の小学生たちが病院に連れてきたので、保護しましたが、飼い主は見つかりませんでした。何とかこの子に新しい家族をつくってあげたいのです。

亡くなったさくらちゃんに対する献身的な看護や、愛情深くお世話されているお二人の姿を見て、看護師がいつも感動していました。さくらちゃんが亡くなってまだ半年ですが、もしそのお気持ちがあれば、もう一度、ゴールデン・レトリバーと暮らしていただけませんか?

今すぐにお返事をいただかなくても結構です。お断りされても仕方がないことだと思っていますから。今、私の家で世話をしていますが、実際に会ってみたいと言っていただけたら、すぐにお宅まで連れて行きます」と院長先生は写真を夫の方へ差し出した。

部屋の中で、ゴールデン・レトリバーがボールを咥えて遊んでいた。丸い大きな目、ゴールデンらしい大きな鼻と、長い耳。夫は震える指で写真を手に取り、「わかりました」と答えた。

「今すぐにお返事できなくて、すみません。これから二人で相談させていただきます。命を預かることなので、ちゃんと話し合ってご連絡します。お声かけ頂きありがとうございました。この写真は、お預かりします」と、丁寧に胸ポケットにしまった。

二人とも黙って病院を出て、静かに歩いた。公園から、子どもたちの歓声が遠くから聞こえる。私は可愛いゴールデン・レトリバーの写真に動揺していた。

院長先生は私たちを「素晴らしい飼い主」と評価してくれた。でも、半年で新しい子をお迎えするのは、亡くなったさくらちゃんへの裏切り行為のような気もするのだ。あの子はとてもやきもち焼きで、散歩で他のこを撫でていると、割り込んで入ってきたぐらいだ。

「さくらは新しい子にやきもちを焼くでしょうね」と夫に言ったら、「そうだなあ」と同意してくれた。飼うべきか、お断りするべきか、本当に、本当に、わからない。飼っても良いのか、亡くなった子に聞いてみたい。

もう一度、犬を愛してみたいけど、亡くなったさくらが嫌がるならば、絶対に飼いたくない。新しい子に夢中になって、あの子のことを忘れてしまうのも嫌だ。でも、亡くなって半年、犬の素晴らしい匂いに囲まれた生活が、心の底から恋しかったのは事実なのだ。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

\ この記事をみんなにシェアしよう! /
この記事をみんなにシェアしよう!
関連記事
関連記事
  • ニュース

今日もハスキーとコーギーのガウガウ運動会が勃発! (10.26)

  • ニュース

インドの“青い犬”騒動はかつて日本が通った道。公害によって苦しんだ動物たち (10.26)

  • ニュース

季節による気分の浮き沈み…これって犬にもあるの? (10.25)

  • ニュース

小型犬に特化した高機能・高品質なラグジュアリードッグウェアブランド「dytem」 (10.25)

もっと見る

注目のグッズ

犬猫どっち派?村松誠の「2021年版 犬猫カレンダー」

ドラえもんに大変身!犬猫用『ドラえもん コスチューム』

人気記事
人気記事
\ PETomorrow をフォローするには下のボタンをクリック! /
PETomorrow をフォローするには下のボタンをクリック!


ページトップへ戻る