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ホームレスのおじいさんとその愛犬の思い出

都会に暮らす無宿人たち

今から17年ぐらい前、高卒の僕は就職のために神奈川の横須賀に引っ越した。そこは入社した就職先が管理しているマンションで、なんとオートロック式。7階建てぐらいの立派な建物だった。屋上に出ることも出来て、駅チカ。さらに職場まで徒歩5分と、まさに好立地と言っても差し支えなかった。ありがたかった。田舎から出てきたばかりの僕にとって、横須賀の夜は刺激的だった。いたるところに夜のお店のキャッチが立っているし、ネオン煌々と輝く街並み、米軍基地が近いから文化もちょっと異質。こんな良い環境で働ける僕は、きっと特別な存在なんだろうと思いながら甘い飴を舐めていたものだ。

さて、田舎には無いものが都会には山ほどある。その一つがホームレスだ。僕は宮崎出身だが、地元でホームレスって滅多に見なかった。いや、もしかしたら皆無だった。一見そう見えても、実は家がある人ばかりだった。僕が初めて間近にホームレスを見たのは、横須賀が最初だった。

自称・無宿人とその愛犬がマンション前に…

僕の新生活はとにかく慌ただしかった。少し前まで偏差値の低い高校で学生をやっていたのに、突然スーツを着て上京し、慣れない標準語の習得に悪戦苦闘しつつ人間関係もリセットされたわけで。ただ、そんなことよりしんどかったのが家財道具の少なさ。特にテレビはどうしても欲しかった。テレビがあれば、PS2のゲームができたので。

しかし近隣の家電量販店に行くも、並んでいるのはちょっと高級で手が出ないものばかり。困り果てて家路につくと、マンションのエントランスに何者かが横たわっていた。それが今日の主人公である。その人物の傍らには柴犬もおり、僕は「あ、ホームレスが犬を連れてるのか」と理解した。その日はそのまま無視して自室に戻ったが、それからしばしばエントランスでこの2人を見かけることになった。

ある朝出社するためにマンションを出ようとすると、また件のホームレスがいた。このときホームレスが「俺はホームレスじゃねえぞ、無宿人だ。分かったか」と僕に怒鳴ってきた。びっくりしたが咄嗟に「おう」と答えたら、無宿人は笑って「分かりゃいいんだ、いってらっしゃい」と言ってきた。その日以降、ちょいちょいエントランスや近所の公園なんかで無宿人とその愛犬と遭遇するたびに、少し話をするようになった。

別に大した話はしない。「今日は傘持っていけ」って言われたり「拾ったハンカチで犬のバンダナ作ったんだけど、どう?」とかそういう話だ。この柴犬は元々捨て犬で、無宿人が偶然発見して保護したそうだ。そのままペットショップに売ろうとして持ち込んだけど門前払いを食らったらしい(そらそうだ)。で、そうこうしているうちに柴犬に愛着がわいて、一緒にふらふらするようになったわけである。

無宿人はガリガリだったが、柴犬はふっくらしていた。多分、自分の食費を削ってでも柴犬にご飯をあたえていたんだろう。

無宿人に「テレビが欲しい」と相談すると、教えてくれた格安リサイクル店

無宿人と知り合ってから1か月ぐらいが経過した。相変わらずテレビは買えないままだった。最初の給料日は来たが、思ったより手取りが少なく、僕はテレビの購入を躊躇していたのだ。そんなとき、無宿人とたまたまエントランスで目が合ったんで「どっかに安い店ないかな。ブラウン管でもいいんだ」と聞いてみた。すると無宿人は、すぐ近くに行きつけのリサイクルショップがあると教えてくれた。ただ僕には土地勘がないので、犬の散歩がてら付いてきてもらうことにした。他人の目はあんまり気にならなかった。なにせ知り合いがいないので。

果たしてそのリサイクルショップに到着すると、無宿人は店主らしき人物と早速談笑。どうも拾ってきたがらくたをここに持ち込んで日銭を稼いでいるようだった。で、僕はすぐに店頭にブラウン管のテレビが5000円で売り出されているのを発見し「おお、テレビじゃ!」と興奮した。5000円でテレビが買えるなら安いもの。すぐに購入し、お店で台車を貸してもらってマンションまで運んだ。

こうして僕は無宿人のおかげで快適なゲームライフを楽しむことができるようになった。ちなみに購入したテレビはVHS再生機器が内蔵された、いわゆるテレビデオだったがそっちの機能は故障していた。

おわりに

それからも無宿人との些細な関係は続いたが、あるとき会社から異動の命令が出た。今度は小田原に行くことになった。それを無宿人に伝えると「あら、そう」と一言だけ。柴犬も、しれっとした顔をしていた。慌ただしく荷造りをして、テレビデオも梱包して、僕は小田原に引っ越した。小田原では同期が割と優しくしてくれたのですぐに馴染むことができて幸いだった。ただ、休みの日ともなると無宿人とその愛犬がどうも頭の中にチラつく。そこである日曜日に無宿人の様子を見るために横須賀に戻ることにした。

一応手ぶらもアレなので道中で日持ちのしそうな食料をいくつか見繕って、少し前まで住んでいたマンションのエントランスを覗く。

いない。

返す刀でしょっちゅう無宿人と愛犬が寝ころんでいた公園に向かう。

いない。

ならばとテレビデオを購入したリサイクルショップを覗いてみるも、見つからない。そこで店主に「あのホームレスと犬を探してるんですが」と話しかけた。すると彼は「ああ、あの人ならちょっと前に『いい稼ぎ口が見つかったから』つって、犬連れて出て行ったよ」と教えてくれた。いい稼ぎ口って何だろうかと気になったが、それ以上は店主も分からない様子。元々彼は無宿人。ひとところにあまり長く居座るタイプでもなかったんだろうから、愛犬と共に次の街に向かったんだと納得をして横須賀を離れた。

先日、上野駅周辺をぶらぶらしていると、その無宿人によく似たじいさんを見かけた。でも、無宿人は僕が新卒のときに出会ったとき、既に70ぐらいに見えたし、さすがに同一人物ではなかったんだろうなぁ……。どなたか、無宿人のその後をご存じないだろうか。2004年頃に横須賀中央駅付近にいて、ふっくらして毛艶の良い柴犬を連れていた痩せた色黒、ごま塩頭の老人。もし「知っている!」という方がいたら、ご連絡いただければ幸いである。

文/松本ミゾレ

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