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犬と一緒に捨てられた男の話

犬が死んだ朝

犬と一緒に捨てられたのだと気づくまでにはずいぶん時間がかかった。

7年前、同棲していた彼女を空港まで送りに行った時は、帰ってくるものだと信じきっていた。あんなに溺愛していた犬を置いて出ていくなんて、考えられなかったからだ。

犬は彼女がペットショップで一目ぼれして、買ったらしい。

ペット禁止のマンションだったので、大家さんとご近所からクレームがついて、マンションを追い出され、仕方なく同棲することになった。

当時の自分は、同棲は結婚へ向けてのステップアップであると勘違いしていたので、大喜びで犬と彼女を受け入れた。

そして同棲後、半年もたたないうちに実家に帰ってしまったのだ。まさかそのまま7年もの間、放っておかれるとは思いもよらず、犬との生活が続いた。

犬に病気やケガをさせたら、彼女に悪いと飼育管理を徹底してきた。

仕事でやっているのと同じように、獣医師の指示に従い、何か異常があればすぐに専門家に相談した。動物病院の看護師からは「よい飼い主さんのお手本ですね」と誉められたことがある。

犬は出て行った彼女に接していたのと同じように、自分になついてくれた。

最初は「可哀想に」と同情から相手をしていたのが、次第に無くてはならない存在になってきた。

もともとペットに関心のない自分が、この犬に対して強い絆を感じるようになったのは不思議なことだと思う。一緒に暮らすパートナーとして、無くてはならない存在に変わっていった。

人間以外の生き物を、こんなに愛しく感じたことはなかった。

膝の上にいる時の温かさや、安心して寝ている時の息遣いを感じていると、胸が締め付けられる。「うちに来てくれてありがとう」という感謝の気持ちに満たされる。

特に犬を飼っていてよかったのが早朝の散歩だ。

汚いオッサンが一人で外を歩いていたら不審者だけれど、犬を連れていれば、誤解されない。

ぶらぶら川岸の歩道を歩きながら、のんびり日の出を楽しむ。

顔なじみになった飼い主も多くて、犬同士を遊ばせながら、しばらくどうでもよい話をするのも良い。時々、通学途中の子どもたちに「犬を触らせてくださーい」とせがまれることもあり、すっかりワンコ君のおじさんになっている。

毎日少しずつ変わっていく季節とともに、犬も次第に老いてきた。若い頃は、散歩が嬉しくて、グイグイとリードを引っ張って歩いていたが、今はのんびりトコトコ歩く。顔もだいぶ白くなってきた。

老いたのは犬だけじゃなく、自分も同じだった。

人並みに結婚や子育てをしなければと、焦った時期もあったけれど、犬と一緒に彼女に棄てられて、なんだかこのままでも十分に人生を楽しめるような気がしてきた。

私生活でも仕事でも、余計な欲を手放したら、とても生きやすい。

犬は彼女を覚えているようで、時々、玄関をハッと振り向く時がある。

見ているこっちは切ない気分にさせられるが、犬自身は悲嘆することもなく、自然に彼女がいない状態を受け入れ、目の前の幸せに満足している。

このまま日常生活は続いて、犬と一緒に老いていくのだろう。
棄てられたもの同士、絆を深めながら。

そしていつか、犬が死んだら、彼女との縁が本当に切れるのだと、思っている。

文/柿川鮎子

「犬の名医さん100人データーブック」(小学館刊)、「犬にまたたび猫に骨」(講談社刊)、「動物病院119番」(文藝春秋社刊)など。作家、東京都動物愛護推進委員)

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