TOP>ニュース > 謎の赤ん坊を咥えて走っていった愛犬

  • ニュース

謎の赤ん坊を咥えて走っていった愛犬

虹の橋を渡る日まで

弟の新居に呼ばれた時、「ぜひワンコも一緒に連れてきて」と言ったのは弟のお嫁ちゃんだった。嬉しくて、トリミングした上に動物病院でしっかりオーラルケアまでしてもらって連れて行ったのに、ありえない大事件を引き起こした。連れて行かなければ良かったと後悔している。

新居の御披露ということで、弟夫妻が義理両親と母、私たち夫婦を家に招待してくれた。リビングで美味しいお茶とともに話が盛り上がり、ふと気が付くと犬がいない。マナーパンツを付けていたのでトイレの心配はなかったけれど、嫌な予感がした。

「ごめんなさい、ちょっとワンコを探してもいい?」とキッチンのお嫁ちゃんに声をかけて、廊下に出たら、うちの子が寝室のベッドの下で何かをしている、のぞき込んだら子どもの死体が見えた。

ギャッと尻もちをついたと同時に、犬が私をすり抜け、夫のいるリビングに血まみれの赤ん坊を咥えて走って行った。ベッドの下には棺桶があり、私は腰が抜けて立てない。リビングにいた義理の両親と私の母は絶叫して顔を覆って、ソファーにうずくまった。

「あっ、私のドールちゃん!」とお嫁ちゃんがキッチンで叫んだのを見て、夫が素早く犬の口から取り上げたのは、とてもよくできていた人形だった。

血まみれだったのは、そのような人形のデザインだったのだ。眼球が飛び出し、包帯まで巻かれていて、傷口からリアルに見える血が滴っている。

弟が廊下で腰を抜かした私を引っ張り上げてくれたので、慌てて夫に駆け寄るが、全員がおぞましい人形を見て何も言えなかった。

私はとっさに犬を抱きかかえ、「お嫁ちゃん、うちの子がごめんなさい、家に連れて帰ります。お先に失礼しますっ!すみませんでした、ごめんなさいっ、あなた後おねがい」と叫んで、車に乗せた。

血みたいなものを咬んで、うちの子は大丈夫なんだろうか。動物病院に連れて行くか、いやまて、少し落ち着いて運転に集中だ。

後部座席のシートベルトできょとんと私を見ているうちの子を見ていると、苦しくなった。とんでもないことをやらかしたけど、悪気があったわけじゃない。家でもいろんなものを咥えてきて「遊ぼう」とやるのだ。皆でこのおもちゃで楽しもうよ、と夫を誘ってくれただけなのだ。目を離さなければ良かった。

自宅に連れて帰ると犬はいつも通りで、安心する。すぐにネット検索をしてみたら、同じようなケガをした死体の人形の画像が山のように出てきた。趣味仲間のコミュニティが世界中にあり、「人形に可愛いリボンをつけるか、包帯を巻くかの差でしかない」と主張していて、納得すると同時に安心した。

とはいえ、風変わりなおもちゃの人形、と笑えないのは、わが家の過去にある。弟は幼稚園の頃、交通事故でかなりの重傷を負った。包帯を巻かれた血まみれの弟の姿は、私たち家族の脳裏に、鮮明に焼き付いている。

しばらくして夫がタクシーで帰ってきて、その後の顛末を聞いた。お嫁ちゃんの両親はこの人形を知っていて、結婚したら手放すという言葉を信じていたらしい。お嫁ちゃんは「どうしても棄てられなかった」と泣いていたそうだ。

私はなるべく明るく「それならもう正々堂々、隠さず可愛がることができるよ」と無理やり言ったら、「そうだけど、弟君とキミのお母さんがねえ」と暗い顔をされた。

人形は棺桶に入っていて、死亡証明書まで備えてあった。それがあまりにもリアルで、弟と母が混乱して大変だったらしい。弟は「今までなぜ趣味を隠していたのか、夫である自分が100%信頼できないのか」と問い詰めたと言う。

「その上、キミのお母さんが弟くんの事故の話をしたんだ。死んでもおかしくない大事故だったんだね。僕も知らなかった。お母さんは『なぜ痛みや苦しみを趣味にできるのか』って号泣しちゃって、お父さんが職場から車で迎えに来てくれたけど、しばらく落ち着くまで、静かにしてよう。きっかけをつくってしまったのはうちの子だから」と夫が肩を落とした。

弟は夫によく似て正義感がつよく、秘密や隠し事が大嫌いだ。人形はともかく、隠されたという事実を乗り越えて夫婦生活を継続できるかどうかが、最大のポイントだと思う。

弟がニコニコしながら「この人が、僕のお嫁さんになってくれる人」と、実家で紹介してくれた時を思い出す。末っ子の弟の結婚を何より喜んだのは母なのに、どうしたら良いのだろう。お嫁ちゃんは何でこんなすぐにバレるところに、人形を隠したのか。うちの子が引き起こした事件で、弟夫婦は離婚してしまうかもしれない。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

\ この記事をみんなにシェアしよう! /
この記事をみんなにシェアしよう!
関連記事
関連記事
  • ニュース

「地雷犬」として訓練された犬…発案した人々に起きた報い (9.21)

  • ニュース

犬を手放そうと思っているなら「犬の十戒」を読むべき。 (9.20)

  • ニュース

犬と一緒に捨てられた男の話 (9.20)

  • ニュース

今宵もガールズトークに花が咲く2人 (9.20)

もっと見る

注目のグッズ

犬猫どっち派?村松誠の「2021年版 犬猫カレンダー」

ドラえもんに大変身!犬猫用『ドラえもん コスチューム』

お待たせ。「俺、つしま」グッズ大特集!

ヘビロテ確定。「俺、つしま」のTシャツが登場!

人気記事
人気記事
\ PETomorrow をフォローするには下のボタンをクリック! /
PETomorrow をフォローするには下のボタンをクリック!


ページトップへ戻る