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死んでも飼い主を永遠に支えてくれる犬【犬が死んだ朝】

犬が死んだ朝

ひどい頭痛がして吐き気が治まらないと訴えたら、医者は簡単に「MRI検査をしましょう。やったことあるよね?ないの?じゃあ、看護師さんに説明を聞いて」と診察室を追い出された。人生最大の危機かもしれない。

MRIって、筒みたいなものに入るヤツだよね?私は軽い閉所恐怖症だ。長時間、狭いところに閉じ込められるのは勘弁してほしい。でも、中年のおばさんが病院でそんな甘ったれてもダメだし、どうしよう。あわてていると、私よりずっと年下の看護師さんが笑顔で「大丈夫ですよ、この検査は全然痛くないんです」と言う。

「狭いより痛い方がマシなんです」と訴える間もなく、化粧を落とされ、時計から靴下まで身ぐるみはがされて、頭を何かに包まれて、白い台に寝かされた。看護師は分厚いヘッドホンを当てながら「トイレに行きたくなったり、何か異常があたらこのボタンを押してくださいね」と、硬いものを握らせて、私一人を小部屋に残し、さっさと出て行った。じんわり冷たい汗が、わきの下を伝っていく。

こういう追い詰められた時、どうすればよいのだろう。そうだ、何か良いことを考えるんだ。すごく良いことを考えれば、怖さがやわらぐし、時間をかせげる気が紛れる。じゃあ、私にとって良い記憶って何だろうなあ。ふり返ればたいした人生を送ってこなかった気もするし。余計に落ち込む、というか、自分で追い込みかけてどうするの?

いきなり良いことを考えるといっても、具体的に思いつかない。何かイメージがないと、幸せな想像は難しい。まずはこの指先の硬い感触からいくことにしよう。今はボタンのようなものを握っているけれど、私が好きなのはフワフワして指先がめり込むような優しい感覚だ。大好きだったポメラニアンのふわっとした肌触りである。

ポメラニアンの毛を上からそっと抑えると、小麦粉の様な、ちょっと冷たく感じる繊細な柔らかさが伝わってくる。薄茶のポメ太郎の、首の後ろで爆発しているような毛の感覚が、脳内にありありと蘇ってきた。ふかっとする指触りを反芻するように思い起こしていると、恐怖がどんどん薄らいでくる。

ポメ太郎は私が小学校5年の時に家に来た。母が仕事に復帰して、姉妹で留守番している最中に寂しいだろうと連れてきた犬で、フカフカの被毛が爆発するように生えていた。触った瞬間から虜になった。

被毛に指をすべらせた瞬間から、私にとってポメ太郎が一番の友達になった。感触の良い被毛はいつまでも撫でていられる。トリミングサロンから帰ってきた直後の素晴らしい指どおりは、今でも鮮明に思い出すことができる。

いろいろな犬を触らせてもらったが、ポメラニアンの被毛は他の犬に比べて繊細で独特だ。ポメ太郎はちょっと頑固で、私以外の人にはあまり触らせなかったから、得意になって撫でまわしていたっけ。

結婚する時、一番つらかったのはポメ太郎との別れだった。母から「あなたがいなくなって、ポメ太郎はすごく元気が無くなっちゃったのよ」と報告されて号泣した。何とか引き取りたかったが、あの時は、お腹に赤ちゃんがいて動けず、しばらくして亡くなってしまった。長い間、後悔した。

あの時の赤ん坊はもう高校生。思えばあれからずいぶん時がたつのに、あのフカフカな触感と、丸くて黒い大きな瞳は今でもはっきりと思いだすことができる。そして、こんな人生最大(かも知れない)のピンチの時、ポメ太郎は記憶を通じて、私を助けてくれるのだ。

死んでも私に力をくれる犬。亡くなって今年で17年。その間ずっと私の中で生き続けて、支えてくれたんだと思うと、泣けてきそうにありがたい。犬は死んでもゼロにならないのだ。飼った人の心に生き続けている。

死んでもゼロにならないのであれば、死を恐れる必要は無いのかもしれない。このMRI検査で私に病気が見つかって死んでも、ポメ太郎の様に誰かの心の中に生き続けて、こんな風に勇気をあげられたらいいなあ。

ヘッドホンからモーツァルトの音楽とともに看護師さんの声が聞こえてきた。「はーい、検査終わりまーす。台が動くのでしばらくじっとしていてください」。

文/柿川鮎子

「犬の名医さん100人データーブック」(小学館刊)、「犬にまたたび猫に骨」(講談社刊)、「動物病院119番」(文藝春秋社刊)など。作家、東京都動物愛護推進員)

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