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いつの間にか、実家が古民家猫カフェになった事件

虹の橋を渡る日まで

久しぶりの休日だというのに、田舎の両親から実家に呼ばれた。妹も来ていたのだが、俺たちが揃ったところで親父がおもむろに「大事な話がある」と言う。ちょっと身構えていたら、親父の口から出たのは「カフェを開こうと思う」だった。

俺も妹も「???」と声も出ない。いきなり何をぬかすのかと思ったが、「母さんとずっと話はしていたんだが、資金のメドもついたし、この家を古民家風カフェにリニューアルしようかと思う」と切り出した。

「ちょっと待てよ、古民家風って、うちはただの古い家だし、開業資金ってのはどうしたんだ?そんなに退職金が出たのかよ?」

「いや、信金の山田さんが二つ返事で審査通してくれた」

さすが田舎だな、って、信金の山田さんもちょっとは考えろよ。というか、もう図面も出来てんのかよっ!テーブルには設計図が広げられた。

親父は地方公務員を真面目に勤め上げて、昨年定年退職した。無趣味な男だと思っていたが、定年後すぐ知人の喫茶店で「修行」したらしい。だから「コーヒーもテー(ティーと言えない)も大丈夫だ」だと。

いつ頃からオフクロとそんな話をしていたのかと聞くと、俺たちが独立してこの家から出て行ったあたりかららしい。でもこんな田舎に客が来るのかぁ?

「私のリサーチによると、近辺のカフェに対する興味は高く、特にロマンスグレーのマスターというのに、かなりの需要が見込まれることが判明した」と、急にプレゼン口調になる父。なんだよその怪しげなリサーチは。ロマンスグレーって、ただの白髪、しかもグレーよりも肌色の方が多いだろうが。

久しぶりに実家に来たのにずっとツッコミっ放しだったのだが、どうやら両親共にやる気満々で、特に親父は自分の決めたことをなかなかまげない。「じゃあ、そういうことだから」と、結論だけ聞かされて、俺も妹も「早く東京へ帰れ」と、実家を追い出された。

半年後、ついに実家の古民家風カフェが開店した。開店祝いには親父の元職場の同僚や親類、オフクロの友人知人で賑わっていた。それはいいのだが、ひとつ気になるものがあるぞ。

「親父、あのカウンターの椅子の上で鎮座している猫は何?座布団まで敷いてあるけど?」

「あ、その子、ウチの店長」とあっさり答えやがった。

看板猫か?それもリサーチの結果か?「いや、看板猫じゃなくて、猫店長だ。ウチで一番エライんだぞ、お前、あいさつしてこい」と笑っている。何だ、いい笑顔だな。久しぶりに見たぞ。

妹が俺の袖を引いて呟いた。「ちょっとお兄ちゃん、お母さんがね、このカフェ、あの猫のために開いた、って」

「はぁ?」猫のために借金してまでカフェ開いた、っていうのか。大丈夫かあの二人、もうボケ始まってんのか?もうわけワカラン。とにかく冷静になって話を聞く必要がある。

「お前達がウチを出て行ってから、母さんと二人で保護活動に参加していたんだよ」閉店後、店長を膝に抱いて親父が語り出した。

実家のある地域は田舎だけに野良猫も多いが、捨て猫も多かったそうだ。わざわざ他所から棄てに来る輩も少なからずいて、問題になっていたのだ。

そこで地元有志による猫の保護活動ボランティアが結成され、そこに両親ともに参加したらしい。実家でもたまに保護猫を預かっていたそうだが、俺たちが帰省したときはたまたま猫がいなかったそうだ。どうりで気付かなかったワケだ。

しかし、野良猫のボランティア活動に無理が出てきた。何よりも保護に関わる資金はいつも不足していて、活動自体も存続の危機を迎えてしまった。そこで資金集めを兼ねてカフェ経営に乗り出した、ということらしい。

カフェを保護活動の発信基地にして、里親捜しの場所としても活用するのだとか。

「この前、俺たちに言っていたリサーチって、方便だったのかよ」と聞くと親父は「うんにゃ」とスマホの画面を見せてきた。スマホを持っていたことにも驚いたが、親父はSNSを駆使してちゃんとアンケートを採っていた。ていうか、いつからSNSなんて始めたんだよ、しかもスキル高いなっ。

開店から半年が過ぎ、心配していた客入りだったが、例のSNSの繋がりからの口コミに加え、猫店長の意外な人気のおかげでまぁまぁの賑わいをみせている。県外からやってくるお客さんも多いらしい。

久しぶりに顔を出してみると、店長の他に猫店員が3頭も増えていて、客の膝の上で接客に余念が無い様子。コーヒーとワンディッシュの田舎料理が売りだそうだが、皿に乗ってるのは普通に我が家のおかずだった。それでもお客様は喜んでくださってる様なので、ツッコまないでおこう。

カウンターの親父に、借金も何とかなりそうじゃないの、と声をかけたら、親父は入り口近くの壁を指さして「そんなことより、今日も里親が決まったんだよ」と嬉しそうに話す。指した壁には、里親募集の猫の写真とプロフィールがぎっしりと貼られていた。

カウンター席の一番いいところに陣取って、店内を見回す猫店長と、眼を細めてそれを見ている親父とオフクロ。かなり心配していたけど、まぁ、当分は大丈夫なようだ。第2の人生を猫と共に楽しんでいる親父の姿も悪く無いと思えてきた。

しかし、後ろ髪を結わえて蝶ネクタイ締めたエプロン姿の親父には、いまだに慣れることができない。

(文/木村圭司、編集/柿川鮎子)

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