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「猫を飼ってはならない」という掟が破られた家の話

虹の橋を渡る日まで

僕の一族(といっても大した家柄では無い)には、「猫を飼ってはならない」という掟(おきて)があった。一族の本家は代々神主で、大黒天を祀っていた。その使徒であるネズミを狩る猫は、禁忌扱いされていたのだ。今、本家は廃れてしまって、残された神社は地元の住民たちが共同で管理をしている。

本家の力が弱ってきた頃から、一族の間でこっそり猫を飼う家が出てきたそうだが、わが家では祖母の時代まで猫とは縁が無かった。祖母の母、つまり僕の曾祖母は本家筋から嫁入りした人で、とにかく「絶対に家に猫を入れない」と徹底していたらしい。

当時のわが家は間取りだけは大きい古びた民家で、曾祖母と祖父母、両親と僕と弟の大所帯だった。屋根裏ではズミが走り回る気配が絶えずしていた。でも、意外とネズミの害は無く、「ウチのネズミは悪さはしないよ」と曾祖母はいつも自慢げに語っていたものだ。

僕はこの曾祖母にとても可愛がられていた。暇さえあれば、奥の「ひいばぁの部屋」でお菓子を食べながら、一緒にテレビを見ていた。お気に入りは「トムとジェリー」で、僕より曾祖母の方が楽しんでいたと思う。「あのネズミは本当にお利口だねぇ」と、手を叩いて大笑いしていた。

大黒天を祀(まつ)る家としては、いつも猫よりも一枚上手のネズミの活躍を観るのは痛快だったのかもしれないと、子どもの僕は思っていた。

たいていは追いかけっこをしながら、猫のジェリーがやっつけられていたが、ごくたまにトムとジェリーが仲良く協力する場面もあった。猫好きな僕はジェリーが痛い目に遭わないのが嬉しかったが、同時に曾祖母も「あら、今日は猫が酷い目に遭わなくて良かったねぇ」と漏らしたことがある。「あれ?」と思ったが、特に気にせずにいた。

そんなわが家に初めての猫がやって来たのは、曾祖母が亡くなった後の三回忌が終わった数日後だった。

庭石の上にちょこんと白い子猫が座っていたのだ。いきなり現れたそいつを祖母は何の躊躇いも無く家に入れてしまった。「え、いいの?」と、両親も僕もちょっと驚いてしまったが、祖母は全く意に介さず「いいの、名前もシロちゃんと決まってるから」と、まるで猫が来ることを予知していたかのようだった。

しばらくして、僕が東京の大学に行くため家を出る前日、シロを抱いて縁側に腰掛けていた祖母から呼び止められ、小遣いをもらった。そして、「ばあちゃんももう歳だで、あんたに言とくわ」と、シロの話を打ち明けた。

祖母によるとこのシロは、曾祖母から遣わされた猫らしい。そして、そのとき初めて祖母が打ち明けたのが、「ひいばぁは猫が好きだった」。

一族の決まりで曾祖母は野良猫に触れたことすら無かった。しかし曾祖母は猫好きで、自分の娘である祖母が「猫を飼いたい」と繰り返し訴えていたのを、寂しそうに断っていたらしい。

「迷い猫が来た時に、泣いて飼いたいとお願いしたのに、絶対に許してくれなかった。ずいぶん恨んだもんよ」と、祖母はシロの背中をなでながら思い出していた。

曾祖母が息を引き取る前日に、祖母に伝えたそうだ。「あって無いような本家の決まり事なんて、今さらだったよね。ごめんね、猫飼いたかったよね。私も猫好きよ。だから、私が死んだら飼っていいよ。ただ、一応、本家の顔を立てて、三回忌が終わるまでは我慢してね」と。

祖母は思わず「やった!猫、飼っていいんだ」と一瞬心が弾んだらしい。でも、苦しそうに寝ている曾祖母に悪くて、目を伏せた。曾祖母は祖母の手を優しくたたいて、「いいの、いいの。私の分もいっぱい可愛がってね」と伝えて、亡くなったそうだ。

祖母は自分が曾祖母にやられたのと同じように、僕の手の上をぽんぽん優しくたたいていた。ばあちゃんの太くてフニャフニャした指の感触から、僕はひいばあの部屋で見たトムとジェリーが鮮やかによみがえって来た。猫好きなひいばあは、ひそかにジェリーを応援していたのかもしれない。

「あ、そういえば、ばあちゃんは、シロが来るのがわかっていたみたいだけど、どうして?」と聞いてみた。すると、すごい話をしれっとするのだ。

「三回忌の法要の読経のときにね、耳元で『三、四日したらそっちにシロが行くから』って、ささやかれたから」と。

びっくりしてシロを見たら、シロはばあちゃんの膝の上からゆっくり顔を上げて、僕を見ながら、ニャーという声を出さない鳴き声をしてきた。まっ昼間なのに、背中がゾクッとした。

田んぼが宅地になり、少し離れた場所にショッピングセンターも建って、曾祖母が生きていた頃とくらべわが家の周りはかなり変わっている。

でも田舎であることには変わりなく、時々、庭先に野ネズミがチョロッと顔を出す。しかし縁側で寝そべるシロはそれを目で追うことすらしない。どうやら曾祖母にしっかり言い聞かされてきたのだろう。わが家の掟は破られたけれど、ネズミは相変わらず自由にしている。

/木村圭司、編集/柿川鮎子

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