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猫には「先生」と名付けて、日々、教育してもらっている

虹の橋を渡る日まで

猫が前足を投げ出してぐうっと体を後ろに引いて、気持ちよさそうに伸びをした。この姿を見ているだけで、自分も一緒に体をストレッチさせているような爽快感を味わえる。

伸びをした後はしゃんとお座りして、体勢を整えた後、目をつぶってしばらく瞑想するように居住まいを正す。長い尾を前足に絡ませるように巻き付けた姿は崇高な気配が漂っている。

私は猫を「先生」と呼んで尊敬しているから、いちいち猫の動作に感動してしまう。一緒に暮らしてもう長いのに、どの行動も新鮮で、その都度、猫のすごさを実感させられる。猫先生に正しい人生を教えてもらわなかったら、きっと大きな事件や事故に巻き込まれ、心を病んでいただろう。

ブラック企業なんて言葉が流行りだした頃、私は真っ黒な会社に勤務していた。日付が変わる前に家に帰れるのは月に3日ほど。ともかく人手が足りずに、毎日の仕事に追われまくっていた。

自分に余裕がないと、いろいろな感覚が鈍くなる。深夜、コンビニを出たところで、若い男に「金を出せ」と言われてもピンとこなかった。言われたまま財布を出して中を見たら、おにぎりと朝食のサンドイッチを買って、財布には小銭しか無い。

「あーすみません、今、これ買っちゃって、お財布にこれしかありません」と正直に伝えて財布の中を見せて、ごめんなさいと頭を下げたら、若者は黙ってあっさりと引き下がり、バイクで走り去った。

家に着いたとたんに、我に返った。これは事件だ。交番に電話をして顛末を説明していたら、激怒された。「あなたね、危ないところだったかもしれないんですよっ!そういう時は、すぐにお店に引き返して、逃げなさいっ」と注意されても、早く寝たいとしか感じなかった。

感覚が鈍る一方で、仮想敵が増えていった。自分と同じぐらいの女性が幸せそうにしていると、たちまち敵と認識していた。

当時の私は敵が私を苦しめていると本気で思っていた。私が忙しいのは、さっさと仕事を辞めた女性たちのせいだと逆恨みしていたのだ。

そんな時、友人が野良猫を拾った。路上でケガをしていたので治療して家につれて帰ったが、手が着けられない乱暴者で、一緒に暮らしている犬と猫を攻撃して困っていると言う。

「忙しくて、家にあまりいないって言ってたでしょう?そういう静かな環境のところで、しばらく落ち着いて療養してもらいたいの。ケガが治るまでで良いから、お願い」と頼まれたので、仕方なく引き受けた。

猫はしばらく私の顔を見て威嚇していたが、食事をくれる人と認識してからは、攻撃しなくなった。私のいない昼間は自由に家中を歩き回り、居心地の良い場所を見つけてくつろいでいるらしい。

猫と自分を比較しているうちに、自分の感覚がおかしくて、非常識な生活をしていことに、気づき始めた。

朝、一分一秒でも長く寝ていたい私にとって、朝食は一瞬で飲むものだった。前夜、コンビニで買ったサンドイッチを牛乳で流し込むか、おにぎりをペットボトルのお茶で飲み下す。化粧は乗換駅のトイレですませる。

一方、猫はカリカリごはんを一口ずつおいしそうに口に入れて咀嚼する。ポリポリと美味しそうな音を立てながら、味わって食べて、終わるとゆっくりお水を飲む。水の後は丁寧に毛づくろいをする。目を閉じて、背中の毛を優雅に舐め続ける。もちろん、私の化粧時間より、長い。

当時の私は自分より良い生活を送る人を敵と認識していたので、当然猫にも憎しみや妬みを感じるはずだったのに、逆に尊敬の念がわいてきた。

猫は何と悠々と人生を満喫しているのだろう。そして、気持ちよいと感じることに貪欲だ。誰とも比較せず、自分を中心軸にして生きている。眠いときは寝る、遊びたいときはしつこくせがむ、自分のやりたいことだけをしているから、無理がなく、心がいつも平安で、波立たない。

私はといえばいつも時間に追われ、他人を気にして、無理を重ねる。無理をするからいつも苛立っていて、心が不安定だ。この歳になっても、自分軸がまるでなく、他人の目に縛られ、自分らしさがまるでない。

猫のすごさを知って、私には猫が必要だと感じた。引き取ると言うと、友人はとても喜んでくれたけれど、最初からそのつもりだったのかも。たくさんのフードやグッズをプレゼントしてくれた。

猫ともっと一緒にいる時間が欲しくなって、正社員から契約のリモート社員に切り替えてもらった。「もう、体力的に無理です」と、ハンカチで目を拭いて見せたら、あっさり許可してもらえたのは、ちょっと寂しかった。給料は安くなるし、雇用は不安定だけれど、ずっと家で仕事ができる。

猫には先生と名付けて、日々、教育してもらっている。今日は「無理しない術」を教授してもらった。壁に小さなクモが這っているのを見つけた先生は飛びつこうと体勢を整えて目を爛々と光らせていたが、クモが天井に上り詰めたところで、あっさりあきらめた。先生は自らの能力を知り、決して無理をしないのである。

何と素晴らしい先生の教え!婚活も無理しないように、と教えているのだろう。アプリに「年収1000万円・身長180センチ以上希望」なんて書いていた私が、愚かすぎた。

先生は日々、私に生きる知恵を教えてくれる。虹の橋を渡る日まで、私の人生の、たいせつな師である。

(文/柿川鮎子)

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