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男一人はじめての猫カフェは白昼夢のようだった

虹の橋を渡る日まで

何なんだろうな、このシチュエーションは……ふんわりとした空間で猫を膝に抱えたまま、僕はぼんやりと考えていた。

子供の頃から群れるのが嫌いで、就職してからも無難なペースで「おひとり様」を貫いている。プロジェクトの打ち上げなどの社内の飲み会は常識程度に参加するけど、休日を潰してのBBQは不参加だ。

残業の無い日や、会社がらみのイベントが無い休日は、ひとりで色々楽しんでいる。カラオケ、バッティングセンター、展覧会、映画、スポーツ観戦など、誰に気を遣うことも無く、自分の好きなものを好きなペースで楽しめるのが、「おひとり様」の良いところだ。

最近、仕事が立て込んで残業続きだったので、その日は取引先から自宅へ直帰にした。相手側の都合で思ったよりも早い時間に仕事が終わったので、時間つぶしに、駅前通りを探索することにした。

まだ夕方にも早い時間だったせいか、飲食店は軒並み準備中だったが、にぎやかだった。良さそうな飲み屋もあって、次に来た時のためのリサーチのつもりで、しばらくぶらぶらと歩いていた。

そのまま通りの端の方まで来たところで、横からすっとチラシを差し出されたのだ。

「ネコCafé Shippoの天使」

「へ?」と差し出された方へ顔を向けると、エプロン姿の女性がチラシを差し出して、にっこり微笑んだ。

「お兄さん、時間があるんでしょ?うちの子たち、美人で可愛いくて性格の良い子ばかりなのよ、ちょっと寄って行かない?」

言われてチラシをまじまじと見たが、やっぱりネコカフェだった。どういう呼び込みの仕方だよと、言いかけたところで、この女性が結構な美人だったのに気がついた。

マスクの上の瞳が黒くて吸い込まれそうだ。とても整った顔つきなのに、年齢がさっぱりわからない。若いのか意外とおばさんなのか、不思議な雰囲気の人だった。

その不思議な美人の笑顔を見て、何故だか「Shippoの天使」とやらに会いたくなってしまったのだ。この美女の店ならば、男ひとりで猫カフェという高いハードルをひょいと飛び越えられそうな気がした。

案内された猫カフェは、表通りから入ってすぐのビルの2階にあった。ドアを開けると元気な声をかけられた。

「いらっしゃいませ~」

何と、受付にいたのが、さっきのチラシの客引き女性と全く同じ顔をしていたのだ。驚いてまじまじと顔を見つめてしまったが、そんな失礼を気に留めず、「初めてですか?」とシステムの説明を始めた。

「では、1時間のご利用ということで承りました。こちら初めての方にサービスの猫のおやつです。では、ごゆっくりどうぞ」

何だか流れに乗るような感じで、促されるまま猫のいる部屋への扉を開けた。

明るく、キャットタワーも設えてあるが、暖色系の壁やソファーと、床のビーズクッションが落ち着いた雰囲気を醸し出している。客は誰もいないようで、少しほっとした。

そういえば猫は?と思ったら、足にふわっとしたものが触れた感触があった。

「にゃあ」

少し毛足の長い茶トラの猫が僕を見上げていた。

おやつが欲しいのか?僕はソファではなく、ビーズクッションに腰を下ろし、猫のおやつを開けようとした。しかし猫はおやつには目もくれず、すぐ僕の膝に乗ってきてそのまま丸まってしまった。

「ずいぶんと人懐っこいやつだな」

猫の背中をそっと撫でてみると、何故かこの柔らかい感触に覚えがあった。指が吸い込まれていくような柔らさ。ビーズクッションの座り心地と、膝の上の温かく柔らかい猫。すべてがふんわりと柔らかく、空気までふわふわしている。

急に現実感が失せて、僕は意識の中ではるか昔の子供時代へとタイムスリップしていた。

庭に大きな木がある田舎の一軒家に、僕は祖父母と暮らしていた。土間には囲炉裏があり、昼でも暗い古い家で、障子の縁側には猫がいた。

子どもの自分はこの猫が大好きで、悲しいときには寄り添って寝て、楽しいときには一所懸命、猫に話しかけていたのだ。

祖父母宅のある集落は人が少なく、僕には猫の他に友だちがいなかった。昼間、祖父母は畑に出てしまい、猫だけが遊び相手だった。

何という名前だったのか、毛の色も、瞳の色も忘れてしまった。祖父が入院した時に、猫のことを聞いたら「うちに犬はいたけど、猫は一匹も飼っていなかったぞ」ときっぱり言われたから、近所の野良猫だったのかも。

祖父母が亡くなり、東京へ出てきて、猫と縁の無い生活が長く、大好きだった猫のことはすっかり忘れていた。しかし、今日ここに来て、急に思い出した。

猫は幸せそうに膝の上で丸まっている。子どもの自分も、こうして猫の重みを感じていた。このなんとも言えない柔らかな背中の毛の指通り。なでていた指から、猫の匂いが立ち上ってくる。

そして、急にはっと我に返った。

夢でも見ていたのかも。最近ずっと残業続きで休んでいないから、疲れが溜まっていたのか、つい居眠りしていたらしい。

気がつくと、膝の上にいたはずの猫は消えていて、代わりに五頭の猫に囲まれていた。全員の眼が自分が手にしているおやつに注がれている。

「あ、これが欲しいのか」

一匹ずつおやつをあげると、全員、ゴロゴロと甘えてきた。

猫をなで回しつつ、僕がひとりでいることが好きなのは、あの縁側で、名前も忘れてしまったあの猫から薫陶を受けていたのかも知れない、と考えていた。一匹でも胸を張って生きていくことを、キッチリ刷り込まれたんだろうな。

「お時間です」と美人店員に声をかけられ、去りがたく、腰を上げた。会計を済ませながら、ちらちら受付の女性を見ていたら、笑顔で種明かしをしてくれた。

「おんなじ顔で、びっくりしました?うちら、双子なんですよ。外にいたのが姉です」

「あ、ああ、そうですか!いやその、けっこう似てたんで」

盗み見したみたいだったので、しどろもどろになって、つい頭を下げてしまった。

「ぜひ、また来てくださいね!」

送られて店外に出ると、あたりは夕刻の色に染まっていた。

初めてのひとり猫カフェは、まるで白昼夢のようだった。でもまたきっと行く。会員証と割引クーポンをもらったからね。

(文/木村圭司、編集/柿川鮎子)

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