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猫に石を投げる男とは、付き合えない。

虹の橋を渡る日まで

マンションのエントランスに飾られたグリーンの下に小さな石が3つ置いてあった。子どもが遊んでいたのだろう。ほほえましいなと思うと同時に、胸が締め付けられるような気分になってしまった。つい最近、小さな石ころが原因で、大好きだった恋人と別れてしまったのだ。

高校時代の同級生で、ずっと憧れていた。長身のピッチャーで、少年野球チーム時代から有名な選手だった。プロになるという噂もあったようだが、私と同じ普通高校に進学して、野球部のキャプテンをしていた。

とびきり甘いフェイスとスタイルの良さで、高校中の女子の、憧れの的(まと)、ヒーロー的存在だった。高校二年の美術は選択授業で、たまたま私は彼と同じ絵画コースを選択していた。大好きな猫の絵を描いて先生に褒められた時は、彼の目を意識して、ちょっと誇らしかったっけ。

先生にデッサンを提出するため、並んで立っていたら、私の真後ろに彼が並んだ。私のカバンにぶら下がっていた猫のマスコットを見つけて「猫、好きなの?」といきなり聞いてきたのだ。びっくりして「うん」と答えて、勇気を出して「佐々木君は猫好き?」と聞いてみたら、「わかんねえ」とぶっきらぼうに返された。それだけの出来事なのに、会話ができた喜びで興奮した。

大学は違ったが同じ六大学だったので、大学野球で活躍している姿をずっと遠くから見ていた。それが、卒業後、同じ会社に就職したのをきっかけに、お付き合いが始まったのだ。新入社員の合同説明会で「猫の絵を描いてたよね」と声をかけてくれた。彼から告白された時は、人生で一番幸せな瞬間だったと思う。

順調にデートを重ねて、ようやく彼の一人暮らしのマンションにお呼ばれした。狭いけれど男性の部屋にしては整頓されて、清潔な印象だった。マンションの前が大きな公園になっていて、日当たりが良く、「ここで彼の帰りを待ちながら料理を作ったり、お洗濯したりする生活もいいな」なんて能天気に考えていた。

窓を開けて公園からの風を入れながら、ランチを食べて、会社の話をダラダラしていた。私は窓枠に手を掛けて立ち上がろうとして丸い小石を下に落とした。床にこつんと音がしたので、かなり重たい石だったと思う。

「やだ、落としちゃった。この石、大切なものだった?」

「あ、その辺にころがしといて良いよ」

「もう一個、こっちにも落ちてた。何に使うの?」

「猫追い」

「え?猫?」

「そう。キミの好きな猫がうろついて、うるさく鳴くから石で追っ払う」

「え?猫に石を投げるの?それ、ひどくない?」

「猫に直接当てたりしないから大丈夫。追っ払うだけ」

私は頭のてっぺんから足元へ、血の気がいっぺんにザザーッと引くような気がした。私の愛する男は、野良猫を追い払うための石を部屋に常備しておいて、時々投げつけているらしい。

「ひどいじゃない?何で?猫がそんなに嫌いだったの?私が猫好きだって、高校時代から知ってるじゃない」

「飼ってる猫と野良猫とは違うだろ?ゴミを荒らしたり、春になると変な声で鳴いて、眠れないんだよ」

「だからって、あなた、ピッチャーだったじゃない、もし猫に当たっちゃったら、どうするのよ!」

「コントロールして当たらないようにしてるからダイジョブだって。嫌だなあもう、猫のことになるとすぐマジになる」

私は生まれた時から猫と一緒に育ってきた。私にとって猫は単なるペットじゃない。命と心をもった大切な家族だ。それに危害を加えるなんて、ありえない。小石をぶつけられて血を流す猫の映像が脳裏に張り付いてしまい、どうしても取れなかった。

小石が別れのきっかけになるなんて、思いもよらなかった。中学、高校、大学とずっと好きでたまらなかった。今でも辛くて仕方がない。彼にふさわしい彼女になりたいと頑張ってようやく恋人になれたのに、こんな風に自分からお別れするなんて、悲しくてたまらない。高校時代からの初恋が黒歴史になっちゃった。

玄関を開けたら、猫が甘い声を出しながら近寄ってきた。おかえりの挨拶を存分に受けながら、やっぱり別れて正解だったと思う。こんなに可愛くて愛しい子たちに石を投げることができる彼の神経が、どうしても、どうしても、どうしても理解できない。猫に石を投げる男とは、付き合えない。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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