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ヒガンバナが咲くと、思い出す猫がいる。

猫が死んだ朝

ヒガンバナが咲くと、思い出す猫がいる。

賢くて可愛く、ネズミ捕りが得意で、遭難の危機を救ってくれた、不思議な能力をもつ猫だった。

小学二年生で両親が離婚して母と二人で暮らすようになってから、留守番中にさびしくないようにと、母がどこかからもらってきた子で、グレーの被毛が美しい雌猫だった。

「離婚した家の子」なんて、今ならざらにいるけれど、当時は珍しかった。堂々としていればよかったのに、何となく引け目を感じてオドオドしていたものだから、執拗ないじめにあった。

持ち物を盗まれたり、蹴られたり、ひととおりのいじめは体験した。盗られた体操着や副教材を新しく買うお金がなかったので、先生にはいつも「忘れました」と嘘をつき、「だらしのないヤツだ」と嫌がられた。

気の強い母親は「やられたらやり返せだ」と背中を押してくる。学校でも家庭でも居場所がない中、唯一、味方になってくれたのが猫だった。猫だけは、バケツの水を被ってずぶ濡れになっていても、給食のジャムを体中につけて帰ってきても、いつも通りに自分を迎えてくれた。

猫を膝の上に乗せて、今日やられた嫌なことを全部話して聞かせていた。猫は黙って私の話を聞いてくれて、時々涙をなめて、慰めてくれた。猫だけが当時の私の、たったひとりの味方だった。

学校近くの山登りの遠足で、いじめっこからリュックと水筒を谷に落とされた。必死で取りに行って戻ったら、クラス全員がその場から移動してしまい、山の中に取り残されてしまった。がむしゃらに登ってみたけれど、山頂に行っても誰もいない。仕方なく誰もいない小屋に入って、ベンチに座っていた。

心細くなって、ベンチで少し泣いたら眠くなってしまい、リュックを抱えて眠ってしまった。気が付くと、うちの猫が足元をスリスリしている。まさかと思って、眼を開けたら本当にうちの子がいて、足元から見上げていた。嬉しくなって抱き上げて、背中をずっと撫でていた。

誰もいない山頂でも、猫がいてくれたから怖くなかった。なぜここに猫が来てくれたのか、不思議に思うこともなく、大好きな猫と気持ちよく一晩過ごして、朝になったら山を下りようと思いながら、眠ってしまった。

気が付いたら病院で寝ていて、母親が廊下で誰かを怒鳴っている声が聞こえた。父が居た頃のように怒っているのが懐かしく、安心して母の大きな声を聞いていた。

どんな経緯があったのかわからないまま、学校に戻らず母の実家に引っ越し、廃校寸前の田舎の小学校に転校した。全校生徒がわずか十名で、小競り合いはあったが、いじめとは無縁の世界だった。

一緒に連れてきた猫は田舎でネズミ捕りに大活躍して、農家から「うちにもひとばん猫を貸してくれ」と引っ張りだこだった。ネズミ捕り猫として村中で有名になり、あちこちで歓迎されていた。猫を小学校に連れて行って、膝の上に乗せながら授業を受けたこともある。

田舎に越してずいぶん経ってから、遠足で山に取り残された日のことが話題になった。猫が自分のところへ来てくれたことを告白すると、母はありえないと否定しながらも、「そういえば、しばらく猫が家に居なかった」と言う。「仕事から帰ってきたら家に誰もいなかったので変だと思って学校に連絡したの」と。

「入院している間に猫が家に帰ってきて、本当にほっとした。どこで何をしていたのかわからないけれど、体中に草がついていて、山に行っていたのかもしれないわ」と母は猫と一緒だったことを信じてくれた。

山の上での幻覚だったのか、生霊を飛ばしたのか、わからないまま、田舎でネズミ捕りに大活躍した猫は、23歳という高齢で眠るように亡くなった。ちょうどヒガンバナがあちこちに咲くころで、毎年、その時期になると猫を思い出して涙が出る。

山の中で独りぼっちで遭難した子供を励まし、救ってくれた猫がいたことを、生涯忘れずにいたい。猫に恩返しするために、毎年、少しだけ愛護団体に募金をしている。猫への恩返しのために。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

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