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「車出してくれない?」仕事中に子猫を拾った兄。

虹の橋を渡る日まで

夜中に段ボールを抱えた兄が、私の部屋に来て「車出してくれない?」といきなり頼んできた。仕事途中で子猫を拾ったので、24時間開いている動物病院に行きたいのだと言う。急いで車を出した。

幸いどこもケガは無かったけれど、栄養状態が悪く、獣医さんによると、しばらくはミルクを数時間おきに飲ませる必要があるらしい。ミルクや栄養補助剤など、たっぷり処方されて、会計したら、びっくりするような額だった。兄と私の財布が一瞬で空になった。

看護師さんにノミを駆除してもらった子猫は、意外と可愛い顔をしていた。家に帰ったら母と妹が待ち構えていて、箱をのぞき込んで喜んでいる。新しい命がやってきて、わが家に新しい希望の灯が輝いた。

昨年、父が急に亡くなって、わが家は激変した。母が「この死亡保険だと、家のローンが払えない」と泣きじゃくるのを見て、兄はさっさと大学を辞め、就職してしまった。妹は来年、高校卒業なのに、ずっと学校に通っていない。私は酔っ払って葬儀にも来なかった夫と大喧嘩をして離婚し、出戻った。夜、母の忍び泣く声が、家を暗くしていた。

私にとってみれば父親なんて、稼いで帰ってくるだけの存在だったと思っていたのに、そうではなかった。大黒柱を失い、兄はその跡を埋めようと必死で、それがまた、見ていて辛かった。

喪失感を抱えながら、誰もが淡々と自分の義務をこなしていた最中に、ノミだらけの子猫がやってきたのだ。母と妹が奪い合いながらミルクを与えた結果、お腹の大きな子猫になってしまい、父が座っていたソファーの一番良い席を占領している。

生前の父と同じようにだらしなくソファーで足を投げ出す猫を見て、妹が「猫のお父さん」とからかったら、可愛い声で「にゃー」と返事をしたらしい。「お父さん、猫に生まれ変わっちゃった」と母と大笑いしていた。こんな風に父をネタにして、家族で笑える日が来るなんて、信じられない。

猫は「温州みかん」の段ボール箱に入って棄てられていたので、猫の名前はみかんになった。薄茶でみかん色の子猫は、いたずら好きな男の子で、いつでも遊びたくてたまらない。うずうず尾っぽを上げながら遊びに誘われると、時間が経つのも忘れてしまう。

無心にただ遊ぶ子猫が、私たち家族の心を溶かしてくれる。悲しみが和らぎ、明日への力を与えてくれる猫には、感謝しかない。あの時、兄が猫と出会わなかったら、わが家はどうなっていたのだろう。

虹の橋を渡る日まで、私たち家族と幸せに過ごして欲しい。私の願いは一秒でも長く猫と一緒に暮らすことだ。そのためには何でもしたいと思っている。私たちを救ってくれた恩人、じゃなくて恩猫なのだから。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

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