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【青山尚暉のワンderful LIFE】崩壊した繁殖場でのマリアの記憶(1)

第七章『崩壊した繁殖場でのマリアの記憶(1)』

鹿児島の記憶-その1

マリアは時々、寝ているときに体をピクピクひきつらせ、うなり声をあげることがあります。今では何も怖いことなどあるはずもない日常なのに、まるで悪い夢にうなされているように・・・。それはそうかも知れません。マリア、いや当時、名前すらない、短い鎖につながれた小柄なラブラドールレトリーバーは、鹿児島の山奥にあった、崩壊した繁殖場でこの世の地獄を体験してきたのですから。


マリアは寝ている最中、うなり声をあげて、こうやって手を伸ばして、何かから逃げているようなしぐさをすることがあります。きっと怖い夢をみているんだろうな。

そんなとき、思わずそっと起こして悪い夢から目覚めさせ、もう大丈夫。なにも心配はいらないんだよ、ってマリアに言ってあげたくなるんです。そしておいしいおやつを食べさせたくなってしまう。だからラブラドールレトリーバーとしては小さな体なのに太っちゃうんですけどね。おなかまわりなんかパンパンだ。

それはともかく、マリアがわが家にやってきて4年が経つころ、ついにマリアが、今でも夢を見ることがある、トラウマ(心的外傷)として忘れたくても忘れられない当時のことを、少しずつ話し始めてくれたんです。

「・・・・・マリアは2005年鹿児島の山奥の電気も水道も通ってない繁殖場で生まれたの。よく覚えていないけれど、すごくすごく寒い季節だった。兄弟は何頭かいたけれど、私と黒ラブのお姉さんの2頭だけが繁殖犬として残されたの。ほかの兄弟は繁殖場で販売もしていたから、引き離され、それぞれ買われていったわ。そのころは繁殖場も採算がとれていたのか、次々といろんな犬種の犬たちが増えていった時期だった。私のママはオーナーにかわいがられていたので、ほかの犬たちと比べれば繁殖場の中では待遇が良かったほうだと思う」

「それでもみんないつも空腹だった。だってオーナーが持ってくるフードは繁殖犬が大小40頭ほどもいるのに1日1回、たった10キロ。それに来ない日が続いたこともあったのよ。もちろん、水道もないところで、飲み水は雨水。タンクにためた水だから、汚くて不衛生だった」

「私たちはいつも餌の取り合いで大変だったの。けんかは日常茶飯事。けがをしても病院に連れて行ってもらえない。耳をかみちぎられた仲間もいたぐらい。そしてけんかをする犬は短い鎖につながれ、ほとんど身動きできない状態でみんなから隔離されていったわ。私のママは顔に三ヶ月の大きな傷跡があったし、私だって耳の付け根と耳先に傷跡があるの。だからその時の教訓で、もう絶対に誰ともけんかなんてしない。怖いし痛い思いはもうしたくないもの」

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